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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1888号 判決

昭和四五年(ネ)第一、八八八号控訴人、同年(ネ)第一、九二四号被控訴人 第一審原告 伊佐俊枝

右訴訟代理人弁護士 小口久夫

昭和四五年(ネ)第一、九二四号控訴人、同年(ネ)第一、八八八号被控訴人 第一審被告 崔済民

昭和四五年(ネ)第一、八八八号被控訴人 第一審被告 小島琴

右第一審被告両名訴訟代理人弁護士 亀岡孝正

同 高瀬迪

主文

1.原判決のうち第一審原告(昭和四五年(ネ)第一、八八八号控訴人、同年(ネ)第一、九二四号被控訴人、以下「第一審原告」という。)敗訴の部分を取消す。

2.第一審被告小島琴(昭和四五年(ネ)第一、八八八号被控訴人、以下「第一審被告小島」という。)は、第一審原告に対し、別紙物件目録(一)の土地につき東京法務局品川出張所昭和四〇年七月一六日受付第一五四一七号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

3.第一審被告崔済民(昭和四五年(ネ)第一、八八八号被控訴人、同年(ネ)第一、九二四号控訴人、以下「第一審被告崔」という。)は、第一審原告に対し、同目録(二)の建物につき同出張所昭和四〇年八月九日受付第一七二九七号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

4.第一審被告崔の控訴を棄却する。

5.訴訟費用は、第一、二審を通じこれを三分し、その一を第一審原告の、その余を第一審被告らの各負担とする。

事実

一、申立

(一)昭和四五年(ネ)第一、八八八号事件

第一審原告訴訟代理人は、主文第一項から第三項までと同旨の判決を求め、第一審被告ら訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

(二)昭和四五年(ネ)第一、九二四号

第一審被告崔訴訟代理人は、「原判決中第一審被告崔敗訴の部分を取消す。第一審原告は第一審被告崔に対し別紙物件目録(二)の建物を明渡し、かつ昭和四〇年一〇月一日から明渡ずみに至るまで一ヵ月金四万円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求め、第一審原告訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二、主張、証拠

当事者双方の主張および証拠は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(第一審原告の主張)

(一)第一審原告は、昭和四五年七月一五日第一審被告崔に対し、本件譲渡担保契約の被担保債権のうち、

(1)金二二万円(原判決添付債権目録(3)に該当)および

(2)金二〇万円(同目録(7)に該当)の同日現在における残債務金一一万〇、三八一円をその住所において弁済のため現実に提供したが、受領を拒否されたので、同年八月一二日これを東京法務局に供託した。

(二)昭和四五年七月一五日現在における残債務が金一一万〇、三八一円である根拠は次のとおりである。

(1)昭和四〇年五月一日前記(1)の金二二万円の貸付を受ける際、同日から同年一〇月八日までの月四分の割合による利息金四万六、五七〇円を天引されたので、第一審原告の受領額金一七万三、四三〇円に対する利息制限法の範囲内である年一割八分の割合による同期間内の利息金一万三、七六七円と、前記天引額との差額金三万二、八〇三円を元金二二万円の支払に充てると、残元金は一八万七、一九七円となる。そのうち金一八万一、二五六円は、昭和四四年二月二一日東京法務局に弁済のため供託したので、残元金は五、九四一円となった。

(2)昭和四〇年六月一二日前記(2)の金二〇万円の貸付を受ける際、同日から同年一二月一八日までの月四分の割合による利息金四万九、九二〇円を天引されたので、第一審原告の受領額金一五万〇、〇八〇円に対する利息制限法の範囲内である年一割八分の割合による同期間内の利息金一万四、〇四八円と、前記天引額との差額金三万五、八七二円を元金二〇万円の支払に充てると、残元金は一六万四、一二八円となる。そのうち金一四万〇、二八四円は、昭和四四年二月二一日東京法務局に弁済のため供託したので、残元金は二万三、八四四円となった。

(3)前記(1)の元金一八万七、一九七円に対する昭和四〇年一〇月九日から昭和四四年二月二一日までの年一割八分の割合による利息および前記(2)の元金一六万四、一二八円に対する昭和四〇年一二月一九日から昭和四四年二月二一日までの同率による利息の合計は、金二〇万八、五一二円となるところ、そのうち金一三万一、八四一円は昭和四四年二月二一日東京法務局に弁済のため供託したので、同日現在の未払利息は金七万六、六七一円となった。

(4)さらに、前記(1)の残元金五、九四一円と(2)の残元金二万三、八四四円の合計二万九、七八五円に対する昭和四四年二月二二日から現実に提供した日である昭和四五年七月一五日までの利息制限法の制限の範囲内である年一割八分の割合による利息は、金三、九二五円である。

以上、(1)、(2)の残元金と、(3)、(4)の未払利息とを合計すると金一一万〇、三八一円となる。

(三)よって、第一審原告の第一審被告崔に対する本件被担保債権は全額弁済によって消滅した。

(第一審被告らの主張)

(一)第一審原告主張(一)の事実は、供託の点のみを認め、その余は否認する。

(二)同(二)および(三)の事実は否認する。

(証拠)〈省略〉

理由

一、当裁判所は、原判決理由第一の一から四の(三)までの説示(原判決一一枚目表二行目から一九枚目表三行目まで)を、左のとおり付加、訂正の上、正当と認めて引用する。

(一)原判決一四枚目表六行目に「(6)ないし(9)」とあるのを「(6)(8)(9)」と改める。

(二)原判決一六枚目裏一〇行目「ある。」の次に、次のとおり付加する。

「なお、遅延利息について特約があったことを認めるに足りる証拠はないので、その率は利息と同じく年一割八分となる。」

(三)同裏一一行目から、同一八枚目表三行目までを、次のとおり訂正する。

「その充当関係を計算すると、第一審原告が第一審被告崔に対し、昭和四〇年八月末日現在において支払うべき制限利息は、元本合計金七四万九、三〇〇円に対する年一割八分の割合による金一万六、三一八円であるから、支払った利息金四万三、四二〇円との差額金二万七、一〇二円をこの元本の支払に充当すると、残元金は金七二万二、一九八円となる。同年九月一日から利息を支払うべきこの残元金および同年九月二五日から利息を支払うべき金三一万二、五〇〇円に対する同年一一月九日現在における年一割八分の割合による制限利息の合計は、金三万二、〇〇九円であるから、支払った金四万円との差額金七、九九一円を元本の支払に充当すると、残元金合計は金一〇二万六、七〇七円となり、結局第一審原告は、前記金一〇六万一、八〇〇円については、金一〇二万六、七〇七円とこれに対する昭和四〇年一一月一〇日から支払いずみまで年一割八分の割合による金員の支払義務を残していたことになる。

(二)昭和四一年四月八日第一審原告が前記残債務の支払として金一一〇万五、九五〇円を第一審被告崔に現実に提供したが受領を拒絶されたので、同日これを弁済供託したことは、当事者間に争いがない。

そうすると、残元金一〇二万六、七〇七円に対する昭和四〇年一一月一〇日から昭和四一年四月八日までの年一割八分の割合による金員は、金七万五、九二四円であり、これと残元金一〇二万六、七〇七円との合計は、金一一〇万二、六三一円であるから、この金一一〇万五、九五〇円の供託により、前記金一〇六万一、八〇〇円およびこれに対する利息(遅延利息)債務は、全額消滅し、なお、金三、三一九円が余分に支払われたことになる。」

二、そこで、原判決添付債権目録(3)、(7)の債権の弁済のため第一審原告が昭和四四年二月二二日にした金四五万三、三八一円の供託について検討する。

〈証拠〉を総合し、これに弁論の全趣旨を参酌すれば、次の事実を認めることができる。(供託の事実は、当事者間に争いがない。)

第一審原告は、昭和四〇年五月一日前記(3)の貸付を受ける際、同日から同年一〇月八日までの月四分の割合による利息金四万六、五七〇円を天引され、現実の受領額は金一七万三、四三〇円であった。また、昭和四〇年六月一二日前記(7)の貸付を受ける際、同日から同年一二月一八日までの月四分の割合による利息金四万九、九二〇円を天引されたので、現実の受領額は金一五万〇、八〇円であった。

よって、(3)の貸金につき、受領額金一七万三、四三〇円に対する昭和四〇年五月一日から同年一〇月八日までの利息制限法の範囲内である年一割八分の割合による利息金一万三、七六七円と、前記天引額との差額金三万二、八〇三円を元金二二万円の支払に充てると、残元金は一八万七、一九七円となるところ、成立に争のない甲第一一号証によれば、そのうち金一八万一、二五六円を昭和四四年二月二一日東京法務局に供託したので、残元金は、五、九四一円となった。

また、(7)の貸金につき、受領額金一五万〇、〇八〇円に対する昭和四〇年六月一二日から同年一二月一八日までの利息制限法の範囲内である年一割八分の割合による利息金一万四、〇五七円と、前記天引額との差額金三万五、八六三円を元金二〇万円の支払に充てると、残元金は一六万四、一三七円となるところ、成立に争のない甲第一一号証によれば、そのうち金一四万〇、二八四円を、昭和四四年二月二一日東京法務局に弁済のため供託したので、残元金は二万三、八五三円となった。

さらに、前記(3)の元金一八万七、一九七円に対する昭和四〇年一〇月九日から昭和四四年二月二一日までの年一割八分の割合による遅延利息金一一万三、六三七円および(7)の元金一六万四、一三七円に対する昭和四〇年一二月一九日から昭和四四年二月二一日までの同率による遅延利息金九万三、八九二円の合計は金二〇万七、五二九円となるところ、成立に争のない甲第一一号証によれば、そのうち金一三万一、八四一円を昭和四四年二月二一日東京法務局に供託したので、同日現在の未払遅延利息は金七万五、六八八円となった。

三、以上認定の事実と、〈証拠〉を総合すれば、次の事実を認めることができる。(供託の事実は、当事者間に争いがない。)

第一審原告は、(3)および(7)の貸金の弁済のため、前記のとおり昭和四四年二月二一日金四五万三、三八一円を供託したのであるが、利息計算を間違えたため、同日現在において、前記のとおり(3)の元金残五、九四一円、(7)の元金残二万三、八五三円およびこの両者に対する遅延利息残金七万五、六八八円を生じた。そこで第一審原告は、この三口合計金一〇万五、四八二円と元金残合計金二万九、七九四円に対する昭和四四年二月二二日以降の年一割八分の割合による遅延損害金を支払うため、昭和四五年七月一五日金一一万〇、三八一円を第一審被告崔の住所において現実に提供したが、同被告から受領を拒絶されたので、同年八月一二日これを東京法務局に供託した。

ところで、金二万九、七九四円に対する昭和四四年二月二二日から昭和四五年七月一五日までの年一割八分の割合による金員は、金七、四七七円であるから、前記元金残等三口金一〇万五、四八二円との合計は金一一万二、九五九円となり、第一審原告が提供ならびに供託をした金額はこれよりも二、五七八円少ない。しかしながら、さきに認定したとおり第一審原告は昭和四一年四月八日第一審被告に対し金三、三一九円余分に供託して支払っているのであるから、これを合わせて前記供託により前記(3)および(7)の元利金全額が完済されたものとみるのが相当である。

四、第一審原告が第一審被告小島に別紙物件目録(一)の土地の所有権を移転し、また、第一審被告崔に同(二)の建物の所有権を移転したのは、いずれも被担保債権の弁済を担保するための譲渡担保としてであることは、前記のとおりであるから、被担保債権が全額弁済された以上、前記土地、建物の所有権は当然第一審原告に復帰し、第一審被告らは第一審原告に対し、同被告らのためになされた所有権移転登記の抹消登記手続をする義務がある。

よって、原判決のうち第一審原告敗訴の部分を取消し、第一審原告の本訴請求を認容することとする。

五、第一審被告崔は、昭和四〇年八月一日第一審原告に対し別紙物件目録(二)の建物を賃料月額金四万円と定めて賃貸したが、第一審原告が賃料の支払を怠ったので賃貸借契約を解除し、その明渡を求める旨主張する。

しかしながら、債務者の占有使用を認めた譲渡担保契約において、賃料の実質は利息であるから、賃料の支払を怠ったからといって、譲渡担保権者において当然賃貸借契約を解除し、目的物の引渡を求め得る権利を取得するものではないのみならず、本件においては、弁済期経過後であるとはいえ、被担保債権の元利金全額を債務者において支払ずみであることは前記のとおりであって、前記建物の所有権は当然第一審原告に復帰したのであるから、第一審被告崔の前記主張は採用することができない。

よって、第一審被告崔の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、同被告の控訴は理由がないから、棄却する。

六、以上の理由により、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九〇条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古関敏正 裁判官 川添萬夫 裁判官田中良二は転官につき署名押印することができない。裁判長裁判官 古関敏正)

〈以下省略〉

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